私たちが暮らす自動車社会では事故による悲惨な事態を避けるために、衝撃基準は年々厳しくなっています。これらの安全基準は、メーカーだけではなく政府機関や自動車製造関連企業、自動車保険団体の活動によって成し遂げられています。20年前の車とどのくらい衝撃基準が変わったのか、衝撃試験を紹介しながら解説していきます。
私たちの命を守る衝撃基準の改定と製造技術
上記の動画は、ANCAP(Australasian New Car Assessment Program:オーストラリア新車評価プログラム)が行った、1998年製と2015年製のトヨタカローラを衝突させた様子が記録されています。一見、2015年製カローラの方の方がボンネットを大破しているかのようですが、運転席へのダメージは抑えられて更にエアバックが作動したことでダミー人形が保護されています。一方、1998年製カローラはボンネットのダメージが運転席まで影響し、ダミー人形へ凄まじい衝撃が伝わっていることが見て取れます。
何も、1998年製のカローラに欠陥があったわけではありません。果たして、この耐衝撃性の違いはどのように生まれたのでしょう。

衝突試験基準の変遷
1990年代から現在までの衝突試験基準の変遷をまとめました。
前面衝突試験
1994年以降の新型車に導入された試験で、時速50kmでコンクリートバリアと正面衝突させて車体が受けるダメージについて、設けた基準をクリアすることを確認しています。
フルラップ前面衝突試験
時速55kmで車体前面の幅の全て(フルラップ)とバリアを衝突させる試験で、1994年以降の新車について義務づけられました。車内のダミー人形への頭部、頸部、胸部、下肢部へのダメージや、車内の耐衝撃性、乗員保護性能の度合いを確かめるために行われます。主にシートベルトやエアバッグで衝撃を逃がすことで試験性能が得られます。
オフセット前面衝突試験
2009年に導入された試験でフルラップの40%の車体前面とバリアを時速64kmで衝突させ、運転席と後部座席に座らせたダミー人形へのダメージを確認する試験で、フルラップ前面衝突試験より現実的なケースを想定しています。フルラップ前面衝突より車体が歪むことで、乗員に対する安全性を確認することができます。
側面衝突試験
1998年以降の新型車に導入された「側面衝突試験」では、走行する車体側面から衝撃を与えてスピンや横転などに対しての安全性を試験するもので、この導入に伴って側面側の空間に余裕を持たせることが必要になりました。
進化し続ける安全基準とテクノロジー

JNCAP(Japan New Car Assessment Program)では、交通事故による死亡者数を減らすために2020年以降にも新たな評価試験の導入が検討されています。
2023年導入予定の前面衝突試験「MPDB」とは?
「MPDB」(Mobile Progressive Deformable Barrier)とは対向車同士の衝突試験を想定して、走行する車両とバリアを前面衝突させる試験です。固定式のバリアを用いる試験と比較して、実際の正面衝突の衝撃では現実性が高いと言われ、前面衝突だけでなくフルラップ前面衝突試験やオフセット前面衝突試験でも、動くバリアを導入するか検討を行っています。
現実性の高い試験への進化
まダミー人形についても、実際の人間が受ける衝撃を再現するために、ダメージを受けると後遺症が残りやすい脊椎や頸椎などもリアルに作られています。より現実性が高い試験を導入していくことで、私たちドライバーの安全性は限りなく追求され、悲惨な事故を少なくしようと車の安全性は日々向上を遂げています。
